ウイスキーをおいしく楽しむためにはどんなグラスを選ぶべきか。飲み方によっても適したグラスの形状は様々です。
日本でのウイスキーの飲み方は海外よりも多種多様です。ストレートやオン・ザ・ロックスに加え、かつては水割りそして今ではハイボールでウイスキーを楽しまれている方が多いはず。それ以外にもトワイスアップ、ハーフロック、ホットウイスキー(お湯割り)、ミスト、ウイスキーフロート、神戸ハイボールなどがあります。
数ある飲み方の中でも、ウイスキー本来の香り・味わいを楽しみたいのであれば「ストレート」が良いでしょう。小ぶりのグラスに好みの量を注いで、香りを楽しみながらじっくりと味わう飲み方がストレートです。
今回は、ストレートでウイスキーを楽しむために僕が所持しているグラスをいくつか紹介し、それぞれの違いを比較検証していきます。
ストレートでウイスキーを飲むならテイスティンググラスがオススメ
ウイスキー初心者の方の中にはどういったグラスを買うべきか迷っていて、自宅にあったオールマイティーな用途のいわゆるガラスコップを使われている方もいるのではないでしょうか。(僕が最初そうでした…)ウイスキー本来の香り・味わいを深く感じるためにはストレートを「テイスティンググラス」で味わうのが最適です。
テイスティンググラスはストレート専用のグラスで、蒸留所での試飲にもよく使われます。香りを堪能するためのチューリップ型シルエット、味わいを堪能するための薄い飲み口、そして脚の部分を持ちグラスを動かして液体を回す(スワリング)ことで空気に触れさせてウイスキーの香りを開かせることもできる多機能グラスなんです。
テイスティンググラスを選ぶ際に知っておきたいグラス形状豆知識
テイスティンググラスの基本的な形状はチューリップ型です。ここではグラス形状の基本的な用語、グラス形状による機能、材質についても解説していきます。
リム
リムとは飲み口の部分のことで重要なのはその厚みや反り方、口径の広がりにあります。
リムの厚み
リムの厚みは口当たりに関係していて、薄いほど口内へのウイスキーの流れ込み方がスムーズで飲みやすくなり、グラスの存在を感じさせないのでウイスキーの味をクリアに楽しむことができます。逆にリムの厚みが厚いほどウイスキーがスムーズに流れるのを妨げ、アルコール感や雑味を感じやすくなります。
グラスは薄い分割れやすくなり扱いに注意が必要です。間違っても乾杯でグラスどうしをあてたりしないようにしましょう。
リムの反り方
リムに反りがあるほど舌の奥にウイスキーが流れ込みやすく、味わいをソフトに感じることができます。逆に反りが少ないほど舌先から舌全体にウイスキーが広がっていくためアルコール感や苦味もしっかり感じることができます。
リム口径の広がり
リム口径がすぼまっているか広がっているかで香りの立ち上がり方が変わります。すぼまって狭いグラスは香りを閉じ込めて強め、逆に広がっていると香りは空中に広がり同時にアルコール臭も放出します。
また口径に応じて飲む人の口の形が変わります。口径がすぼまっていると人も口をすぼめて飲むことになり、ウイスキーは少量ずつ舌の中央を細く流れます。口径が広がっているとウイスキーは舌の先から舌の両脇に流れやすくなり、人によって甘味や酸味の感じ方が変わってくるでしょう。
ボウル
ボウルはボディの丸みを帯びた部分です。ボウルのカーブが大きいほど、顔を上に向けてグラスを傾けるので、のどが開き舌も上がり、カーブの部分にたまったウイスキーは、細い流れとなって舌の上を勢いよく奥に流れ込みます。直線に近いほど顔を上に向ける必要がなく、ウイスキーが広めにゆっくり流れ込み、じんわりと全体に広がっていきます。
ボウルの径はウイスキーを注いだ際の液面の表面積にも影響。空気に触れる面積が大きいほど香りが広がりやすくなります。香り高いタイプのウイスキーは早く香りが飛んでしまうというデメリットがある一方で、若い原酒が使われたウイスキーなどは空気に触れさせた方が飲み口がまろやかになることもあります。
ステム
ステムは脚の部分のことで、手の温度を伝わりにくくする効果があります。ウイスキーは温度によって香りや味わいが変化するもの。温度が高くなるにつれて様々な香り成分が徐々に放出されていくので、ウイスキーを温めずに味わいたい場合はステムを持ち、ウイスキーを温めて香りの立ち上がりの変化を楽しみたい場合はステムではなくボウルの部分を持って手の熱を加える、というように自分の好みや飲むウイスキーに合わせた楽しみ方を探してみましょう。
酔っぱらってグラスを倒してしまう人には、ステムが短いグラスかステムがないグラスがいいかも。
材質
クリスタルガラス
酸化鉛を主要成分として含むガラス。鉛の含有率が30%以上のものはフルレッドクリスタル、24%以上のものはレッドクリスタルグラスと呼ばれます。鉛を配合することで、ガラスの屈折率・透明度が高まり、叩くと金属のように高くて澄んだ音がするのが魅力です。ただ、テイスティンググラスのように薄いグラスでは割れやすいので叩いたりグラスどうしをぶつけない方が良いでしょう。
無鉛クリスタルガラス
酸化鉛を含まないガラス。有鉛のクリスタルガラスと比べると透明度や屈折率が劣るといわれますが、各メーカーの努力によってクリスタルガラスに負けない透明度と屈折率、割れにくく軽い特徴をもった無鉛クリスタルガラスが生まれています。
酸化鉛の代わりに酸化カリウムを使用した無鉛クリスタルガラスをカリクリスタルといいます。それ以外にもメーカー各社がオリジナルで無鉛の新素材クリスタルガラスを開発しています。
ソーダガラス
普通のオールマイティーな用途のガラスコップなどに使われることが多いガラス。クリスタルグラスに比べて透明度は落ちますが、軽くて硬く丈夫で安価です。
テイスティングラスを比較・検証
テイスティンググラスの紹介
テイスティンググラスは様々なメーカーから工夫を凝らしたものが発売されています。ここでは僕が所持しているテイスティンググラス6種類を紹介します。
数値は全て実測値です。リム厚の測定はグラスを傷つけたくなかったのでプラスチック製のノギスを使いましたが、0.01mmまで測る必要はないのでご勘弁を。容量の測り方については、常温の水をグラスで満たして(表面張力による液面の盛り上がりはなし)その重量を測って求めました。(水1g=1ml)
グレンケアン ブレンダーズグラス
テイスティンググラスの定番品で、スコットランド内の多くの蒸留所で使われています。スコットランド・グラスゴーにあるグレンケアン クリスタル社が一流ブレンダーや蒸留所マネージャー等、数多くのプロフェッショナルの意見を取り入れ作り出されたウイスキー専用グラスです。
背が低く、ステムがないので重心がしっかりしていて安定感があります。材質はカリクリスタルガラスという、酸化鉛の代わりに酸化カリウムを使用したクリスタルガラス。手で持つとウイスキーに手の熱が伝わりやすく香りが立ちやすくなっています。
リムはすぼまっていてボウル部の最大径は66mmと大きいため香りが立ちやすく、香気成分がグラス内にとどまりやすい構造です。感じ取れる香りの総量は多いのですが、アルコール感が強いウイスキーを注ぐとツンとしたアルコール刺激も強く目立ちます。
サントリー S/テイスティンググラス
サントリーマーケティング&コマースが販売するテイスティング専用グラス。山崎蒸溜所や白州蒸溜所でウイスキーの官能評価を行う際に使用するテイスティンググラスと同じ形状のものです。山崎蒸溜所や白州蒸溜所のテイスティンググラスには容量がわかるラインがひいてあります。
リム厚が1.6mmと厚めのグラスですぼまっているので味がしっかりわかりやすい一方でアルコール刺激や苦味も感じやすい構造です。
材質はソーダガラスなのでクリスタルガラスに比べると透明度は低くなりますが、ステムが太めで短く安定感があります。価格は今回紹介するアイテムの中でもっともリーズナブルで1脚600円前後。厚みがあり丈夫、大量に並べてテイスティング可能、洗いやすい大きさという点で、数多くのテイスティングを行う現場に最適なグラスです。もちろん自宅でのウイスキー飲み比べ用にも気軽にそろえられるのでとてもいいですね。
ルイジボルミオリ スニフター170(アデリア)
当サイトでウイスキーレビューのストレート用テイスティンググラスに使用しているグラスです。リムは反りがなくすぼまっていて口径が44mmと狭くボウルの最大径が66mmあるので、香りが立ちやすくグラス内に香気成分がとどまりやすい構造です。リム厚が薄いのでウイスキーがスムーズに口内に流れ込みます。
このグラスでウイスキーを素直に飲むと舌の中央を液体が流れて奥までいくのでクリアに味わえます。あえて舌先にあてて飲むことで舌全体でウイスキーを味わうこともできるようになります。飲み方を工夫することでウイスキーの味わいやアルコール臭を含めた香り成分を感じやすくすることができます。
材質はソニッククリスタルグラス(=ルイジボルミオリ社が開発した無鉛素材クリスタルガラス)で、その特性は鉛含有クリスタルと同等の輝きと4,000回以上の洗浄機テストをクリアした耐久力にあります。
価格もリーズナブルで購入しやすく、アルコールも感じやすい点がウイスキーレビューには最適と判断して使用しています。
リーデル ヴィノム コニャック
ワイングラスの老舗として265年以上の歴史を誇るリーデル社のテイスティンググラスです。リーデル社は世界で初めてブドウ品種ごとに理想的な形状のワイングラスを開発しました。ヴィノムシリーズは機能的・高品質でありながらリーズナブルな価格帯で世界中に広まっているマシンメイドグラスです。
ヴィノム コニャックは今回紹介するグラスの中でもっともリム厚が薄く、程よい反りがあってウイスキーが口内にとてもスムーズに流れ込む形状でアルコール刺激を感じにくい特徴があります。ボウルの最大径は60mmありますがカーブは少ないので香気成分はグラス内にとどまりにくい構造です。
個人的な意見ですが、ヴィノム コニャックは香り立ちよりも味わい(口内で感じる味と含み香)に重点を置いているのではないかと感じています。
ステムも長く、まさにチューリップ型の縦長形状がおしゃれでかっこいいですね。
リーデル ヴィノム シングルモルト
こちらのグラスもリーデルのヴィノムシリーズです。ヴィノム シングルモルトは口径=最大径でリムは反っていてボウルが直線的な形状をしています。ボウルの直線部分の直径は56mmで液面の表面積は少ないため香り立ちは少なく、さらにボウル部分に香りがたまらないのでアルコール臭も感じにくいです。
今回紹介しているテイスティンググラスの中で一番香り立ちが少なかったです。
リム厚は今回紹介するグラスの中でヴィノム コニャックに次ぐ薄さの0.9mmで口径が66mmもあるので、ウイスキーが口内にスムーズに入り、舌先から舌の両脇を含めた全体に流れ込みます。鼻からかぐ香りは弱いですが、ウイスキーの味自体をしっかりと、そして口内での含み香を楽しむためにつくられたグラスだと強く感じています。
咲グラス
ウイスキーの最難関資格“マスター・オブ・ウイスキー”を所有し人気バーテンダーでもある静谷和典氏が一から開発に携わった、香りを咲き誇らせるための日本職人によるハンドメイドの吹きグラス『咲グラス』。「ウイスキーをストレートで楽しんで欲しい。そのための最適なグラスを作りたい」という想いのもと開発されました。
この咲グラスはBSフジで放送されている「ウイスキペディア」と咲グラスのコラボ仕様の再販をようやく購入!
他のグラスが全て100g以上であるのに対し、咲グラスは92g。公式情報では重量は約80gとのことですが、実測は少し重かったです。ハンドメイドなので多少のバラツキはあるもの。それでも一度持ってみただけでかなり軽いことがわかりました。
形状は独特でとてもおしゃれです。ポットスチル(シングルモルトウイスキー用の単式蒸留器)の形を参考にしたというボウル部はカーブが大きく、上部にむかって一気にすぼまり、かなり攻めた反りのリムになっています。これは唇が自然にフィットするようにしているとのこと。またグラスの口径が広めにつくられているのは、鼻がグラスの奥まで入り繊細な香りをキャッチしやすくするためです。
ボウル部の最大径が72mmとかなり広く、ウイスキー液面の表面積が大きくなるため香りが立ちやすいですが、上部がすぼまっているため香気成分がグラス内にとどまりやすい構造です。
香りをかぐ時はグラスを置いた真上からかぐのではなく、実際に飲む時のようにグラスを傾けグラスに口を付けてグラス内に鼻を入れた時がもっとも香りを楽しめます。飲み口中央では香りは弱かったです。
また、ボウル部のカーブが大きいために少しグラスを傾けたぐらいではウイスキーが流れてきません。結果、ウイスキーが流れてくるころには顔はかなり上を向き、のどが開き舌があがります。先にも書きましたがカーブが大きいグラスは液体が細くなって勢いよく舌の上を滑って奥に流れ込むものですが、咲グラスは口径が広いため舌の先から全体に流れていき、開いたのどにゆっくりと流れていきます。(のどから鼻に抜ける香りも豊かに感じました。)
咲グラスはその独特な形状による様々な要因が絶妙に組み合わさって、香りや味わいを存分に楽しめるように設計されていると感じました。
まとめの一覧表
6つのテイスティンググラスについて一覧表にしました。
テイスティンググラス | リム厚(mm) | リムの反り | 口径(mm) | 最大径(mm) | 高さ(mm) | 容量(ml) | 重量(g) | 材質 |
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グレンケアン ブレンダーズグラス | 1.3 | なし | 46 | 66 | 115 | 190 | 147 | カリクリスタルガラス |
サントリー S/テイスティンググラス | 1.6 | なし | 49 | 60 | 112 | 138 | 105 | ソーダガラス |
ルイジボルミオリ(アデリア) | 1.2 | なし | 44 | 66 | 167 | 165 | 113 | ソニッククリスタルガラス |
リーデル ヴィノム コニャック | 0.8 | あり | 48 | 60 | 183 | 150 | 133 | クリスタルガラス |
リーデル ヴィノム シングルモルト | 0.9 | あり | 66 | 66 | 115 | 190 | 112 | クリスタルガラス |
咲グラス | 1.3 | あり | 53 | 72 | 142 | 160 | 92 | ? |
※咲グラスの材質が不明でした。わかり次第更新する予定です。
まとめ:テイスティンググラスは何個か持ってウイスキーを楽しみましょう!
テイスティンググラスは少しの形状の違いで、香り・味わいが変化し楽しめます。ウイスキーがブレンデッドかシングルモルトか、スコッチかアメリカンかなどでも適したグラスは異なるでしょうし、そもそもウイスキーのおいしさの感じ方は十人十色です。
一つだけではなく、さまざまなタイプのテイスティンググラスをそろえて飲み比べてみるのも面白いもの。今までずっと同じグラスを使っていたという方はぜひ他のテイスティンググラスも試してみて下さい。よりよいウイスキー宅飲みライフが充実すること間違いなしです!