ウイスキーの味わいや香りをレビューすることで、少しでも皆様のウイスキー選びの参考になれば嬉しいと考えている当ブログ管理人のらまです。
「官能評価」という言葉をご存知ですか?官能評価とは、人の感覚を利用して、ものの特性を把握するための方法です。ウイスキーを始め、食品・飲料メーカーは扱う製品の品質特性を決定・維持するために官能評価を用いています。官能評価の詳細は各メーカーが独自に決定し実施しているため、一般的には公開されていないことが多いです。
実は僕自身、数年前まで大手食品会社の研究所に勤めていました。
味や香りを機器分析したり、官能評価員として新商品開発のための官能評価を実施してました!
その時の経験や新たに文献等で勉強した内容を僕なりに解釈し、それらを基にこのブログでのウイスキーレビューに今後使う表現方法(レーダーチャートと棒グラフ)を決定しました。
官能評価は複数人(十数人から多い場合で数十人)で行い、集団特性をとらえるもので、多数決原理を基本としています。ですので、僕一人の独断と偏見によるレビューは官能評価とはまったくの別物ですが、できるだけわかりやすく一貫性をもったレビューを心掛けるつもりです。
ウイスキーレビューを見ていただけるだけでも嬉しいですが、僕がどういう考えでレビュー記事を作っているか、もし少しでもご興味いただければ読んでいただけると嬉しいです。
ウイスキーのレビューや口コミって気になりますよね
いまこの時、まだ飲んだことはないけれど気になっている、または飲んでみたいウイスキーはありますか?
それはなぜ気になっているのでしょうか?なぜ飲んでみたいと思うのでしょうか?
- 好きな銘柄のシリーズまたは新商品だから
- 好きなブレンデッドウイスキーのキーモルトだから
- 誰かにおすすめされたから
- ボトルデザインの外観がおしゃれだから
- たまたまセール中で普段よりリーズナブルに購入できるから
色々な理由がありますよね。
そのウイスキーがどのような香りや味わいか知りたいとき、このブログにたどり着いていただいた皆さんであれば様々な方法で情報を得ていると思います。
ウイスキーの情報収集
気になるウイスキーの情報を調べるとき、まずグーグル検索する人が多いでしょう。検索キーワードは銘柄そのものだったり、「○○○〇 レビュー or 口コミ」などが多いのではないでしょうか。
すると検索結果に以下の内容が表示されることが多いです。
- メーカーなどの公式ウェブサイト
- Amazonや楽天市場などECモールの商品ページとレビュー
- 価格ドットコムのレビュー
- YouTube
- ブログ
書籍や雑誌を購読して各銘柄のテイスティングコメントを見られているかたもいるでしょう。
飲んだことのないウイスキーの味わいや香りを知ることができるのはとても有益なことです。僕も飲んだことのないウイスキーはググったり、お気に入りのYouTubeチャンネルでのレビューをチェックしたり書籍のテイスティングコメントを見てから購入することが多いです。
しかし必ずしもレビューに書かれている通りの香りや味わいを自分でも感じることができるかというと・・・
味わいや香りの感じ方は十人十色
そもそも味や香りの感じ方、特に閾値は人によって異なります。
閾値 いきち
①ある系に注目する反応をおこさせるとき必要な作用の大きさ・強度の最小値。
②生体では感覚受容器の興奮をおこさせるのに必要な最小の刺激量。しきいち。限界値。
引用元:広辞苑
例えば、砂糖水を0.2%、0.4%、0.6%、0.8%で用意しAさんとBさんにそれぞれ口に含んでもらいます。Aさんは0.2%でも甘味を感じることができますがBさんは0.6%でやっと甘味を感じることが出来ました。となると、Aさんは甘味の閾値が低く感度が良い、Bさんは甘味の閾値が高く感度が悪いということになります。
甘味以外に酸味、塩味、苦味、旨味そして様々な香り成分に関しても同様です。
また、人によっては低濃度の甘味、酸味、塩味、苦味、旨味の水溶液を並べたときに塩味と旨味が区別できない人もいれば0.6%のほうが0.8%よりも濃いと感じる場合もあります。
食品や飲料メーカーでの官能評価は、一般には「分析型」と「嗜好型」に分類されます。
嗜好型は好き嫌いが判断できる人であれば評価員の対象で、商品開発のための消費者調査などの場面で用いられます。
分析型は人の感覚によってものの特性を評価するもので、味や香りの種類が区別出来て閾値が低く、その濃淡も判別できる人が選ばれることが多いです。
選抜された官能評価員はそこからさらに訓練を受け、味わいや香りの感じ方を全員で共有できるようにしていくわけですが、それは専門職など特殊な場合です。
一般的に味わいや香りの感じ方は飲食物の特性やその人の心理状態や生理状態、知識・経験、その場の環境など様々な要因によって変わるものです。
風邪を引いていれば味覚・嗅覚の感度は当然悪くなりますし、気分が落ち込んでいる時や嬉しい時でも感じ方は変わるでしょう。また、同じウイスキーでも家で飲む場合とバーで飲む場合、はたまた開放的な屋外、一緒に飲む人によっても感じ方は変わります。
ちょっと脱線しますが、、、僕は大学院時代にお酒の研究をしていました。その時の恩師がこうおっしゃってました。
「ビールのうまさは、天井の高さに比例する!」
ビールのおいしさの一つに「のど越し」があります。数年前に勤めていた食品会社にいた頃、アサヒグループホールディングスさんに開催していただいた勉強会に参加したことがあります。その時に伺ったお話の中に、ビールの官能評価がありました。「他の酒類では飲み込まずに官能評価できるけれど、ビールの官能評価ではのど越しの評価もあるため、飲み込まなければならない。ビールの官能評価員は大変。」とのこと。
ビールにとって大事な要因であるのど越しは、うつむきながらグラスだけ傾けて飲んでいては半減以下です。天井が高いほど顔は上を見上げやすく、のど越しも楽しめます。そして天井の存在しない屋外で飲んだ時、のど越しはマックス状態になるわけです。ビアガーデンで飲むビールがすこぶるおいしいのはそのためです!
味わいや香りの表現も十人十色
例えばある飲料を飲んだ時、その味わいや香りの特徴はどう表現されるでしょうか。
こちらについても表現者の知識・経験・表現方法が深く関わってきます。
タレントのタモリさんやリリー・フランキーさんは、そのウイスキーの特徴を女性に例えたりするようです。誰かと一緒に飲んでいるシチュエーションで、そのお酒を何かに例えるというのはユーモアがあって面白いので個人的には好きなのですが、そのお酒を飲んだことがない人にとっては具体的に味わいや香りはわかりませんよね。
表現については、食品・飲料メーカーを例に挙げると「フレーバーホイール」というものが使われることが多いです。
フレーバーホイールとは、味わいや香りの評価用語を丸く配列した図のことです。階層構造になっていて、中心に近いほど抽象的で外側ほど具体的な用語になっています。(例えば中心が味や香りでその外側に甘味、塩味や穀物香、果物香など)
官能評価員やウイスキーのブレンダーはこのフレーバーホイールを用いて評価用語の共通化をおこない、各人の評価結果をすり合わせています。
しかしこれについても専門家の方々が用いる表現で、なんの訓練もうけていない一般人にとって味わいや香りを共有することはとても難しいです。
例えばウイスキーであれば「トフィー」「ヘザー」「ピート」「ブリニー」「ワクシー」や「欠陥樽によるムッとくる臭い」「石炭を燃やしたような」など、初心者からすれば「そんな表現されてもわからない」って言葉が少なからずあります。
ブログやYouTubeで自分の感覚に合うレビュアーを見つけよう!
味わいや香りの感じ方・表現の仕方は人によって様々です。
特にAmazonや楽天市場、価格ドットコムといった不特定多数のレビューや口コミでは、その方が普段からウイスキーを良く飲まれる方なのか、どういった基準を持っているか、どのような状況で飲んだのかまではわかりません。
一方でブログやYouTubeなどでウイスキーを数多くレビューをしている方は、ウイスキーの知識が豊富で自分の中に評価のための基準を持っている方が多いのではないでしょうか。
僕のおすすめは、ブログやYouTubeでのレビューを参考にすることです。わかりやすい表現をしているお気に入りのブロガーやYouTuberを見つけることが重要です!
メーカーのWebサイトでもそのウイスキーの特徴を知ることはできますが、良い点は伝えていても、残念な点については書かれることはないでしょう。
もちろんブログやYouTubeのレビューが全てあなたにおすすめだということではありません。中にはその方の感じている味わいや香りが実際に飲んでみると自分には感じ取れない、又は自分とは全く逆の感想だったということもあります。
ぜひ自分の感覚に合うレビュアーを見つけて、これからのウイスキーライフを良いものにしていってください!
当ブログが目標とするウイスキーレビュー
「自分の感覚に合うレビュアーを見つけてくださいね」とは言いましたが、皆さんがウイスキーを選ぶ際や宅飲みを充実させるために当ブログに来て記事を読んでいただくことが僕の目標です。
読者の皆様に少しでもわかりやすく“伝わる伝え方”について考え悩み、行き着いたのが1985年の「プロファイル法によるウイスキーの官能評価」、1989年の「ウイスキーとブランデーの官能評価」という文献です。
これらの文献は少し古いものですが、醸造試験所研究員とウイスキーメーカーの研究員が共同で鑑評会用の官能評価法を設定しています。どのウイスキーメーカーかというと、以下の4社。
- サントリー
- ニッカウヰスキー
- キリンシーグラム(現キリンディスティラリー)
- 三楽(現メルシャン)
名だたるウイスキーメーカーです。(残念ながらメルシャンは2012年に軽井沢ウイスキー蒸溜所を閉鎖)
ウイスキーの特性をレーダーチャートで見える化!
醸造試験所研究員と各ウイスキーメーカーの研究員が共同してウイスキーの評価用語を整理し、次いでプロファイル法によって評価した結果をダイアグラムで表示するというものです。
醸造試験所での官能評価用ということなので、もちろん複数人で評価を出し合いそれをある計算法で計算してダイアグラムにプロットするのですが、僕が着目したのはダイアグラム(レーダーチャート)の項目でした。
品質の良否を評価していると考えられる香りの調和、豊かさ、味の調和、まろやかさの項目全てにおいて、品質の高いものほどこの4軸に囲まれた面積が大きく、品質格差を視覚的に捉えることが可能であった。
さらに、個性的、香りの軽重、味の濃淡の各項目において、ウイスキーの特性が十分表現されており、このヘプタダイアグラムがウイスキーの品質評価にきわめて有効であることがわかった。
出典:ウイスキーとブランデーの官能評価:日本醸造協会誌,1989年,84巻,11号,732-738
この文献のダイアグラムでは、「香り」と「味」について具体的な「甘味」「渋味」「フルーティー」「スモーキー」などの表現ではなく、「調和」「豊か」「個性的」「まろやか」といった様々な要素を総合的に捉えた表現を項目に設定しています。
基本的にダイアグラム(以後レーダーチャート←こちらの言い方のほうがしっくりくるので)の見方は外側に行くほど(値が大きいほど)良いとされ、つまりはプロットで結ばれた面積が大きいほど評価が高いことになります。
これらの文献を参考に僕の独断と偏見で決定した、当ブログで用いるウイスキーの特性を一目で表現するレビューグラフは次の通りです。
文献では香りは軽いほうが評価が高いとされていましたが、この部分については僕はそうは思いませんでしたので削除しました。また、味に対しての項目は調和、まろやか、濃いの3項目で単純に味覚刺激によるものと思われますが、僕としては実際にウイスキーを口に含んだ際に感じることができる味+口中香=味わいと表現してグラフ化することにしました。
点数は中心から外側に向かって0~10で評価することにし、プロットした点を結んでできあがったレーダーチャートの面積が大きいほど高評価になります。
ウイスキーの少し具体的な特徴表現は棒グラフで
文献では、レーダーチャートで表現できない香りや味の具体的な評価項目は
- フェノール洋香(スモーキー、薬品臭)
- 穀物香(モルト香、穀類香)
- エステル香(華やか、フルーティ、酢エチ香)
- 甘い香り(バニラ様、蜂蜜様、カラメル香)
- 酸臭(酢酸様、チーズ様)
- アルコール香
- etc.
といった項目を設けてチェックを入れて官能評価の票数をまとめるというものでした。
レーダーチャートでは表現しきれない香りや味わいに関するもう少し具体的な項目については棒グラフを用いることにしました。
ここでも文献を参考に、普段ウイスキーを飲んでいて僕でも感じることができる表現項目を設定しています。
フルーティに関して、種類の異なるフルーティさがあるかと思います。例えば、りんごや洋ナシ、柑橘類、桃やマンゴーなどはそれぞれ特徴の異なるフルーティさですが、この棒グラフではそれらをまとめて一つのフルーティで評価することにしました。棒グラフを示した後に文章でどういったフルーティかをお伝えできればと思います。
ウイスキーの飲み方について
味わいと香りに関するレーダーチャートと棒グラフは「ストレート」での評価になりますが、ウイスキーの飲み方別オススメ度については下表の形式でお伝えします。
飲み方 | オススメ度 |
---|---|
ストレート | 1 |
加水 | 2 |
オン・ザ・ロックス | 3 |
ハイボール | 4 |
ホットウイスキー | 5 |
飲み方おすすめ度は5段階で評価することにしました。数値が高いほど高評価になります。
「加水」の項目は「水割り」や「トワイスアップ」にしようかと迷いました。しかし、ウイスキーによってはほんの少量加水するだけで飲みやすくなったり香りが楽しめるようになったりということがありますので、ここでは広く「加水」としその詳細は文章でお伝えすることにしました。
テイスティング方法
味わいや香りの感じ方はその人の生理状態やその場の環境などの要因によって変わるというお話をしました。
一貫性を持ったテイスティングレビューをするためには、できるだけ同一環境と体調でテイスティングする必要があります。
テイスティングの各種条件
官能評価を行う環境は、「一定照明、無臭、恒温、恒湿」であることが理想的です。
僕のテイスティングの場合は自宅の自室になります。特に夏場と冬場でまったく同じ室温・湿度は難しいですが、エアコンや加湿器でできるだけ調整しています。今までの経験から、湿度がかなり重要と実感しています。乾燥しすぎている時は嗅覚がかなり落ちているのですが、加湿器の前で水蒸気を吸い込んだ後は嗅覚が戻っていたりします。
- 室温:20~28℃
- 湿度:50~60%
- 夕食後3時間以降
- 実施前に歯磨きして夕食からの影響をできるだけ少なくする
- 体調不良の時は行わない(テイスティングレビューはしないだけでウイスキーは飲みますよ(笑))
- 照明は温白色で一定
- 室温と同温の水を用意し、テイスティング前に口内リセット(2点以上テイスティングの際はウイスキー切り替え毎に)
基準のウイスキー
一貫性を持ったテイスティングレビューをしていくにあたり、自分の中に評価の基準となるウイスキーを持つ必要があると考えました。
そしてその基準は、先ほど示したレーダーチャートでバランスよく中央値付近にプロットできるウイスキーであり、生産・販売量が多く終売になる可能性が低いものが望ましいです。
これらを加味した結果、当ブログでウイスキーのテイスティングレビューをする際の基準となるウイスキーは、、、
「ザ・グレンリベット 12年」
に決定しました!
ザ・グレンリベット 12年を選んだ理由は以下の通り
- 完成度が高い銘酒
- シングルモルト売上の世界第1位、2位を争う販売量
- スムーズな味わいで総合バランスが秀逸、初心者にオススメであり、飲んだことがある方も多い
- はじまりのスコッチウイスキー(スコッチの政府公認第一号蒸溜所)
- 12年もののシングルモルトの中で高コスパ
これからウイスキーレビューを魂込めて書いていきますので、どうぞよろしくお願い致します!
- プロファイル法によるウイスキーの官能評価:日本釀造協會雜誌,1985年,80巻,7号,480-484
- ウイスキーとブランデーの官能評価:日本醸造協会誌,1989年,84巻,11号,732-738
- ウイスキーのブレンドと香り, 味の話し:らん(纜),1988年,1巻,56-60
- 蒸留酒のブレンド・テースティング~ウイスキー・ブランデーを中心として~:におい・かおり環境学会誌,2017年,48巻,4号,299-309
- 官能評価とは何か、そのあるべき姿:化学と生物,2012年,50巻,7号,518-524
- 官能評価パネルの選抜・訓練:化学と生物,2012年,50巻,8号,600-604
- 製品開発の官能評価:化学と生物,2012年,50巻,10号,742-746
- フレーバーホイール 専門パネルによる官能特性表現:化学と生物,2012年,50巻,12号,897-903