日本の象徴といえば、霊峰・富士山がその一つといえるでしょう。その富士山の麓でつくられている「富士山麓 シグニチャーブレンド」は、キリンが富士御殿場蒸溜所でつくっているモルトウイスキーとグレーンウイスキーを熟成させブレンドしたブレンデッドウイスキーです。

キリンのこだわりが詰まった、ウイスキー本来の味と香りが楽しめる実力派ウイスキーです。
- 熟成年数に捉われず、熟成のピークを迎えた原酒がブレンドされたブレンデッドウイスキー
- アルコール度数50°・ノンチルフィルタードで、味わい豊かで熟成感ある
- トロピカルフルーツと黒糖、バニラ、樽の風味が強い


記事の後半では、同じくキリンのブレンデッドウイスキー「陸」、「ロバートブラウン」とのテイスティング比較もしています。ぜひ最後まで読んでいってください。
富士山麓 シグニチャーブレンドの基本情報・ストーリー
基本情報
銘柄 | 富士山麓 シグニチャーブレンド |
原産国 | 日本 |
蒸留所 | 富士御殿場蒸留所 |
分類 | ブレンデッド |
仕込み水 | 富士の伏流水 |
アルコール度数 | 50% |
所有者 | キリンディスティラリー |
取扱い | キリンホールディングス |
参考価格 | 約4,500~5,500円 |
ストーリー
富士山麓の自然の恩恵


ウイスキーの味わいは、そのウイスキーがつくられた環境に左右されます。ウイスキーづくりに理想的な環境とは、水質が良く水量が豊富であること、温度・湿度のバランスが良いこと、空気がきれいであることが挙げられます。富士山麓 シグニチャーブレンドがつくられる富士御殿場蒸溜所は、これらの条件をすべて満たす立地。富士の自然によって約50年かけてろ過された清らかな地下水(伏流水)、年間平均気温13℃の冷涼な気候と立ちこめる霧による高い湿度、富士裾野の森林に浄化された空気という自然からの恩恵を受けています。
多彩な原酒づくり、キーグレーンの存在
キリンは、1971年にアメリカのシーグラムグループの洋酒を国内販売開始し、洋酒事業に参入。1972年にはシーグラムグループ、スコットランドのシーバスブラザーズ社と合弁で「キリン・シーグラム」を設立し、ウイスキー事業に参入、富士御殿場蒸溜所の建設を開始しました。
富士御殿場蒸溜所は、モルトウイスキーとグレーンウイスキーのどちらも製造している、世界でも稀有な蒸溜所です。蒸留器を3種類使い分けることで、グレーンウイスキーに関しては、ライトタイプ、ミディアムタイプ、ヘビータイプという特徴の異なる原酒がつくられます。一般的に、ブレンデッドウイスキーで味わいの中核とされるのは「キーモルト」という考えが主流ですが、キリンではグレーンウイスキーも味わいを決定づけると考え、「キーグレーン」と位置付けています。
熟成年数に捉われず、熟成のピークを迎えた原酒をブレンド
引用元:キリン「富士山麓」公式サイト
キリンは創業当初から、ウイスキー原酒の熟成において「熟成のピークを見極める」ことを重視してきました。一般的な熟成年数という概念にとらわれず、それぞれの原酒が持つ個性を最大限に引き出すための、独自の基準です。ウイスキー原酒の熟成には、以下の通り多岐にわたる要因が複雑に影響し合います。
- 原料
- 製造方法
- 蒸留液の組成
- 樽詰アルコール度数
- 樽の種類
- 熟成庫の環境
これらの要因により、原酒はそれぞれ異なる熟成の軌跡をたどります。つまり、同じ年数を重ねても、一つとして同じ状態の原酒は存在しないのです。キリンは、原酒が本来持つ特長や個性が最も良く表れる円熟期を「マチュレーションピーク」と呼び、これを見極めることを品質基準の一つとして重要視しています。マチュレーションピークを見極めるには、ブレンダーとしての熟練度、長年の経験と知識が必須です。
「富士山麓 シグニチャーブレンド」は、熟成のピークを迎えた原酒のみを厳選しブレンドすることで、複層的で奥深く、気品のある味わいを実現しています。



マチュレーションピークを迎えた原酒のみの使用は、まさに贅沢ブレンドといえますね。
ウイスキー本来の味わいをノンチルフィルタードで
引用元:キリン「富士山麓」公式サイト
多くのウイスキーはアルコール度数60°前後で樽詰めして熟成させ、熟成後にアルコール度数を40°前後まで加水し瓶詰めします。長い年月をかけてウイスキー原酒中に溶出した樽由来成分の中には、高濃度アルコールだからこそ溶けている成分、ある程度の液温までなら溶けていて低温になると析出してしまう成分があります。これが瓶詰め後に濁りとなってウイスキーの液中に見えるようになると、見た目の問題で消費者からのクレームにつながってしまいます。この濁り対策として、加水後に冷却して析出した成分をろ過して取り除く冷却ろ過(チル・フィルタレーション)という工程がとられます。富士山麓 シグニチャーブレンドでは、この冷却ろ過を行わないことで、ブレンドされたマチュレーションピークの各原酒本来の味わいが楽しめるように製造されています。(ノンチルフィルタード)
富士山麓 シグニチャーブレンドのテイスティングレビュー・評価
富士山麓 シグニチャーブレンドの特性レーダーチャート


富士山麓 シグニチャーブレンドの特徴
コメント(ストレートでの評価 オススメ度:)


香り
濃厚なフルーティーさがあり、内容としてはパイナップル系のトロピカルフルーツやレーズンが強く感じられます。バニラの香りも強く、キャラメルやウッディさも。
味わいと余韻


口に含んでみると、完熟したパイナップル系のトロピカルフルーツ、レーズン、バニラ、黒糖、はちみつ、キャラメル、木樽由来のウッディさが強く、チョコレートもわずかに感じられ、濃厚で豊かな味わいです。ボトルに年数表記はないものの、非常にまろやかで熟成感を感じられます。また、アルコール度数50°のわりにアルコール刺激は少なく、ストレートでも飲みやすいです。(ウイスキー飲み慣れてない方には強いと思いますが)
黒糖感は沖縄黒糖のような濃厚でまろやかさがあり、ウッディさはきちんと感じるのですが、強すぎることなく、温かみがある優しいニュアンスの木樽感です。スモーキーさは探るとほんのわずかにありますが、他の風味が濃厚でほとんど目立ちません。
余韻は長く、僕の感覚で70秒ほど。口に含んだ瞬間から、パイナップル、レーズン、バニラ、黒糖、はちみつ、キャラメル、木樽、チョコレートを感じ取ることができ、パイナップルとレーズンの濃厚なフルーティーさは前半で消えていき、中盤にはチョコレートが感じなくなっていきます。バニラ、黒糖、木樽は最後まで感じられました。パイナップルに関しては、5秒前後にピークがあり、口に含んで少し経ってからがフルーティーさをもっとも強く楽しめます。



高価格帯のブレンデッドウイスキーですが、濃厚で複雑、熟成感があり、この飲みごたえは一飲の価値アリ。グラスに注いでからしばらく置いておくと、桃のニュアンスもでてきます。
富士山麓 シグニチャーブレンドの飲み方別 オススメ度
飲み方 | オススメ度 |
---|---|
![]() ![]() ストレート | 5 |
![]() ![]() 加水 | 5 |
![]() ![]() オン・ザ・ロックス | 5 |
![]() ![]() ハイボール | 5 |
![]() ![]() ホットウイスキー | 5 |
加水 オススメ度:


黒糖感が弱まった一方で、チョコレートの風味が強まり、パイナップルがさらにトロピカルフルーツ感アップしジューシーに。アルコール刺激は目立たなくなり、かなり飲みやすくなりました。
オン・ザ・ロックス オススメ度:


トロピカルフルーツのあとに少し苦味がありますが(パイナップルというより何かのトロピカルフルーツ)、そこからさらにジュワッとくる甘味が好印象。クリーミーさが抑えられ、よりフルーティーな甘い風味が目立つように。また、鼻から抜けていく風味にスモーキーさも少しあり、風味豊かなオン・ザ・ロックスです。氷が溶けていくと苦みは落ち着き、余韻には程よいビターさと、のどの奥にトロピカルフルーツが残ります。
ハイボール オススメ度:


濃厚なパイナップルと程よいバニラクリーミーが秀逸なハイボールです。余韻に感じるわずかなビターさによって甘ったるさはなく、グイグイ飲み進めてしまう危険さも。飲んだあともパイナップルの余韻が楽しめます。
ホットウイスキー オススメ度:


トロピカルフルーツはストレートより弱まりますが、非常にバランスの取れた味わいのホットウイスキーです。ビターチョコのニュアンスが強まり、優しい飲み口で柔らかく豊潤。
ぬるま湯割も実はオススメです。風味が飛びすぎず、苦味も抑えられ、トロピカルフルーツとバニラを感じられます。他の要素は渾然一体となってまとまった印象です。
富士山麓 シグニチャーブレンドと陸、ロバートブラウンとの比較


同じくキリンのブレンデッドウイスキー 「陸」、「ロバートブラウン」と飲み比べしました。
富士山麓 シグニチャーブレンドと陸、ロバートブラウンとの特性比較


富士山麓 シグニチャーブレンドと陸、ロバートブラウンとの特徴比較
これら3銘柄に絞った比較表を用意しました。
富士山麓 シグニチャーブレンド | 陸 | ロバートブラウン | |
---|---|---|---|
特性 | 香り・味わいともに豊かで濃厚、熟成感があり、高レベルのバランス | クリーンな味わいであり、力強さもある | 開栓後しばらく経つと、味わいに豊かさと奥行きがでてくる |
特徴 | 〇トロピカルフルーツと黒糖、バニラが強め 〇まったりとした甘味と程よい苦味 〇フルボディ | 〇きれいで華やか、バニラの風味が強い 〇甘味と苦味が強め 〇ミディアムボディ | 〇バニラ、カラメル強め 〇完熟フルーツ感が少しあり、華やか 〇ライトよりのミディアムボディ |
キリンの目指す酒質は「クリーン&エステリー」といわれています。3銘柄を飲み比べると、もっともクリーン&エステリーという言葉がしっくりくるのが陸でした。これは言葉だけからイメージした感想でしたが、キリンの公式サイトによると、「雑味が少なく果物や花のような心地良い香りとまろやかな味わい。ウイスキーの特長がしっかりと感じられながらも調和が取れていて、まろやかな味わいが心地良いウイスキー。」がクリーン&エステリーとのことです。この言葉の意味を知ってから改めて飲み直すと、
- ロバートブラウン:キリン第一号ウイスキーで、クリーン&エステリーを模索し始めた初期の味わい。
- 陸:ウイスキーを普段飲まない人もターゲットにしたキリンウイスキーの入門ボトル。コストを抑えながらクリーン&エステリーが味わえる。
- 富士山麓 シグニチャーブレンド:クリーン&エステリーなブレンデッドウイスキーの完成形。熟成感があり、まろやかで心地よい味わい。
といった印象を受けました。陸に関しては、2020年に発売され、2022年に早くもリニューアルしています。個人的な感想ですが、その際に味わいがよりクリーンで軽やかになったと感じていました。ロバートブラウンはハイボールで真価を発揮すると感じています。とても華やか(エステリー)なハイボールが楽しめます。
富士山麓 シグニチャーブレンドは陸・ロバートブラウンと比べると、頭ふたつ分飛びぬけた領域にいるウイスキーだと感じました。量販店の店頭価格では、陸が約1,500円(陸は容量が500mlなので、700ml換算すると2,100円ほど)、ロバートブラウンが約2,500円に対し、富士山麓 シグニチャーブレンドは約5,000円。価格差はかなりありますが、味わいを考えると決して高いものではないでしょう。
感想・まとめ:キリンのこだわり「熟成の芸術」を味わえる
マチュレーションピーク原酒のみを使ったキリンのブレンデッドウイスキー「富士山麓 シグニチャーブレンド」を紹介しました。使われる原酒それぞれが熟成のピークを迎えたものというだけあって、熟成感を存分に味わえます。さらにノンチルフィルタード製法によってウイスキー本来のおいしさが味わえるように品質設計されていて、キリンのこだわりが詰まったウイスキーといえます。



価格は約5,000円と贅沢品ですが、その味わいはお値段以上であることに間違いなし。飲んだことがない方には、ウイスキー初心者~上級者に関わらずぜひ味わってみてほしいウイスキーです。
- 熟成感があり、味わい豊かでマイルドなウイスキーをお探しの方
- ノンチルフィルタードで様々な香味の要素が重なり合うウイスキーをお探しの方
- 贈り物用にこだわり製法のウイスキーをお探しの方





