ウイスキーが琥珀色のお酒であることは多くの方がご存知のことかと思います。ではウイスキーとブランデーの違いをご存知でしょうか。「ウイスキーもブランデーも似た見た目と高いアルコール度数のお酒で木樽で熟成させているイメージ」という認識の方もいらっしゃるでしょう。
ウイスキーとブランデーは、実は原料も香りや味わいも違います。
今回はお酒についての大まかな分類と、蒸留酒の中でも見た目が似ているウイスキーとブランデーの違いをわかりやすく解説します。
お酒にはどんな種類がある?
このブログにたどり着いてくれた皆様であればお酒が嫌いな方はいらっしゃらないでしょう。しかし改めてお酒の種類を質問されると、スーパーのお酒コーナーでもよく見るビール・日本酒・焼酎・ワイン・ウイスキー・ブランデー・梅酒などがどういう属性のお酒なのか曖昧な方もいらっしゃるでしょう。
この記事ではそんな方々に向けておおまかに説明します!
まず「お酒」は少し難しい表現をすると「酒類」と呼ばれます。酒類の酒税法上の定義は、“アルコール分1度以上の飲料”をいいます。
酒類の分類は「製造方法による酒類の分類」と「酒税法による酒類の分類」の2パターンがありますが、「酒税法による酒類の分類」は2018年の酒税法改正により現れた分類です。近年は飲酒の傾向としてビールよりも低価格な新ジャンル(第三のビール)を飲む人が増えたことで、酒税による税収が減少してしまいました。この背景から、酒税による税収を確保するために新ジャンルの酒税を段階的に上げていくことになりました。というわけで「酒税法による酒類の分類」は酒税確保のための分類なので、酒類についてきちんと理解するために「製造方法による酒類の分類」を説明します。
酒類は、アルコールの製造方法によって醸造酒、蒸留酒、混成酒の3つに大きく分類されます。以下に簡単に解説します。
醸造酒
果実や穀類の原料をそのまま、または糖化したうえでアルコール発酵させた酒類が「醸造酒」です。
具体的には
- ビール
- ワイン
- 日本酒
- 紹興酒
- マッコリ
蒸留酒
醸造酒、その半製品、醸造酒の副産物を蒸留した酒類を「蒸留酒」またはスピリッツといいます。
具体的には
- ウイスキー
- ブランデー
- 焼酎
- ウォッカ
- ラム
- ジン
醸造酒の副産物とは酒粕などで、酒粕に含まれるアルコール分を蒸留した粕取り焼酎があります。
当ブログで情報発信しているウイスキーは醸造酒を蒸留した蒸留酒という分類です。
混成酒
醸造酒、その半製品、蒸留酒等に糖類や香料を加えた酒類。またはそれらを混合したもの。
具体的には
- リキュール類
- 梅酒
- みりん
ウイスキーとブランデーって似ているけど何が違う?
原料の違い
酒類の分類でウイスキーとブランデーはどちらも蒸留酒であることは解説しました。見た目も似ている両者の違いは簡単にいうと次に示すとおりです。
- ○ウイスキー
-
穀物(大麦、ライ麦、小麦、トウモロコシなど)を糖化・発酵・蒸留させ、木樽にて熟成させたお酒
- ○ブランデー
-
果物(ブドウ、リンゴ、洋ナシ、プラムなど)を発酵・蒸留させたお酒
もっとも大きな違いはウイスキーは穀物からつくられ、ブランデーは果物からつくられるという原料の違いです。
製法の違い
原料の糖化
お酒はアルコール飲料です。お酒をつくるためのアルコール発酵は、酵母という微生物が糖を代謝してアルコールと二酸化炭素を生成する現象です。アルコールをつくるためには糖が必要なんです。
ブランデーの原料である果物はそのままでも多くの糖類が含まれているため絞り汁に酵母を添加すればアルコール発酵がおこなわれます。一方でウイスキーの原料である穀物はそのままでは糖類が少ないため、穀物中のでんぷんを糖化して糖類を作り出す必要があります。
ウイスキーづくりで穀物の糖化に使われるのが「麦芽=モルト」です。麦芽とは「麦の芽」ではなく「発芽した麦」のことで、麦芽には糖化酵素をはじめ様々な酵素が含まれます。
原料穀物と麦芽は粉砕されて温水と合わさり固体と液体が混合したマッシュとよばれる粥状にされます。麦芽の糖化酵素がもっとも作用する65℃付近にマッシュの温度を保つことで糖化がすすみ、糖化後にしぼることで糖類たっぷりの液体が得られます。
熟成
ウイスキー熟成用の木樽は、例えばスコッチウイスキーではシェリー酒が詰まっていた樽やアメリカンウイスキーのバーボン熟成に使われていた樽など他の酒類の熟成に使われていた樽を、バーボンウイスキーでは内面を焼いた新樽を使いますが、ブランデーを熟成させる場合は新樽を水洗・酸洗浄後に使います。
ウイスキーは木樽での熟成が必要ですが、ブランデーには果物の風味を残すために木樽熟成しないものもあります。
成分の違い
蒸留とは、水とアルコールの沸点の違いを利用してアルコールを凝縮する工程です。蒸留器にアルコール発酵を終えたモロミを入れて加熱すると水よりも沸点の低いアルコール分などの成分が気化します。気化した蒸気を冷却して液体化したものが蒸留液ですので、蒸留液には原理的に糖や脂質は含まれないはずです。
蒸留酒であるウイスキーやブランデーには糖類は含まれていないとお考えのかたは多いでしょう。文部科学省の食品成分データベースでウイスキーとブランデーの成分を検索してみると下図のように糖類が含まれる炭水化物の数値は「0」です。
しかし、実際にウイスキーやブランデーの糖類を分析してみると微量ながらふくまれていることがわかっています。複数の研究論文をみてみると、ウイスキーやブランデーにはブドウ糖、果糖、ショ糖、キシロースなどの糖類が含まれいたとのことです。
気になるその濃度ですが、1986年の研究論文「しょうちゅう、ウイスキーおよびブランデーから検出された糖類について」によると下表に示す通りです。論文中ではμg/mlという濃度の単位が使われていてわかりづらい方もいらっしゃると思いましたので、僕の方でg/100mlに換算し%表示としました。
サンプル数 | ブドウ糖(%) | 果糖(%) | ショ糖(%) | |
ウイスキー | 30 | 0.0149 | 0.0078 | 0.0003 |
ブランデー | 14 | 0.1230 | 0.1370 | 0.1950 |
各糖類の濃度の数値は分析サンプル数の平均値を示しています。ここにある糖類を簡単に説明すると、ブドウ糖は清涼感を感じる甘さです。果糖は果物に多く含まれる糖でとても甘味が強いです。ショ糖は砂糖のことなのでもっともイメージがわきやすいでしょう。
ウイスキーとブランデーの各糖類の濃度をくらべると、ウイスキーよりもブランデーの方が10倍以上の量の糖類があることがわかります。
「0.1%の糖の甘さなんてわかるの?」という疑問があるかもしれませんが、例えばショ糖の閾値(味を感じることができる最小濃度)は約0.1%といわれています。ブランデーに含まれる糖類の濃度は甘味を感じるには十分でしょう。
ではなぜ蒸留酒であるウイスキーやブランデーには微量ながら糖類が存在するのでしょうか。それは樽熟成中の樽材から溶出してくる成分によるものです。ブランデーの方がウイスキーよりも10倍以上多く糖類が含まれている原因として挙げられるのは、おそらく前述した熟成用樽の前処理(ブランデー用の樽は酸洗浄する)の違いでしょう。
まとめ:ウイスキーとブランデーとの違いを簡単にイメージすると
ウイスキーは大麦(麦芽)が必ず使われ、ブランデーは白ブドウを原料にしたものが多いです。そしてウイスキーやブランデーなどの蒸留酒は醸造酒を蒸留したものです。これを原料からの順に考えてみます。
大麦を原料にした醸造酒はビール、ビールを蒸留して熟成させたものがウイスキーであり、ブドウを原料にした醸造酒はワイン、ワインを蒸留して熟成させたものがブランデーであると考えるとわかりやすいですね。
そして豆知識として、一般的にウイスキーよりもブランデーの方が甘いと覚えておいてください!
- 熟成蒸留酒及びタル材中の糖類について:日本醸造協会雑誌,59,5,72-73(1964)
- 蒸留酒の味 ウイルキー、ブランデーを中心として:日本醸造協会雑誌,60,1,23-25(1964)
- しょうちゅう、ウイスキーおよびブランデーから検出された糖類について:日本栄養・食糧学会誌,39,4,329-332(1986)